生き物への愛の賛歌


「むかしむかし、スリランカという国の小さな村では、じいさんたちはひげを
ながくのばしていました。そして、ひげがあんまり長くなると、包丁で切って
いました。ところが、バンプじいさんはちょっと変わっていて、長くなったひげ
をねずみにかじってもらっていました。
 あるひのこと、いつものようにひげをかじってもらおうとすると、なんと、ひ
げがのびて、たちまち部屋いっぱいにのび、そとへにげだし…」。

 スリランカのシビル・ウエッタシンハの絵本世界は、おおらかで、素朴な愛
の世界だ。それは、人間だけにはとどまらない。自然の中に生きているあら
ゆる生命に注がれている。 キツネ。サル。ネコ。ネズミ。イヌ。ゾウ。イノシ
シ。シカ。リス。ウサギ。オウム。小鳥たち。そしてヤシの木。実のなる木。
花の咲く木。
 それぞれが地面の中にしっかりと根をはり、地上には幹や枝や葉っぱを
元気よく脈うたせ、その中に溶け込んでいる人間の住居。暮らしの様子。
 自然の中で許し合って共に生きている人間と、あらゆる生き物たちへの
おおらかな愛の賛歌だ。
 『にげだしたひげ』をはじめとする彼女の絵本には、人間と動物たちとの
独特のおかしみのあるドラマがいつもあって、慈愛に満ちた優しい光があ
ふれている。 ほかに『きつねのホイティ』など、日本でもたくさんの絵本が
出版され、多くのファンを得て
いる。  
にげだしたひげ
シビル・ウエッタシンハ作・野口忠司 訳
シビル・ウエッタシンハ
1928年、スリランカのガルに生まれ、豊かな自然の中で育つ。
独学で絵の勉強をはじめ、15才ではじめて絵本を描き、5年後に
出版される。17才で地元の新聞社で働きはじめ、主に子ども向け
の記事やコラムをイラスト入りで執筆。また、次々と作品を発表。
それらの多くの絵本は、スリランカの絵本のイラストレーションに大
きな影響を与えている。
『かさどろぼう』は野間絵本原画コンクールの受賞作品。
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